内戦のリスク(2024/9/2)

 

 

 

『それでもなぜ、トランプは支持されるのか:アメリカ地殻変動の思想史』(東洋経済新報社)という本があります。

著者は会田弘継(あいだひろつぐ)氏で、共同通信社ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任し、その後、青山学院大学教授、関西大学客員教授を務めた方です。

本書に、以下のような記述があります。

 

 

 

 

 

・「トランプが民主主義を破壊している」と、よく聞く。「民主主義」が「アメリカ社会・政治」、あるいは「国際秩序」といった言葉にも置き換えられる。メディアに登場する専門家や識者らの説明だ。だが、どこかズレていないか。逆に、民主主義が壊れたから、あるいはアメリカ社会や政治、そのアメリカ主導で作られた、自由で開かれたとされる国際秩序が行き詰ったから、トランプが登場したのではないか。

 

 

 

・ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットという3人の富豪の資産を合計すると、アメリカ国民の下位50%の資産合計額に並ぶといったら、これがまともな国かと思うだろう。こうしたすさまじい格差の底辺で、資産のみならず学歴も世襲されて固定化した階層社会ができあがった。そこをはい上がることのできない低学歴の白人労働者階級の間では、死亡率が上がっている。自殺、薬物中毒、過剰な飲酒に起因する肝疾患を原因とする彼らの死は「絶望死」と名付けられるようになった。他の先進国には見られない異様な事態だ。「封建社会」どころか、死者まで生み出すのだから、今日のアメリカの資本主義は暴虐な圧政に似た状況を生んでいるともいえる。そうして「絶望している国(人々)」がトランプを生んだのである。トランプが格差を生んだのではない、格差がトランプを生んだのだ。

 

 

 

・アメリカが人口10人の国家だと仮定すると、10人の資産合計の70%1人が握っており、下位5人の資産は全員分合わせても2.8%1人の金持ちの25分の1)程度ということになる。やる気を失わせるような格差ではないか。

 

 

 

・国勢調査局の報告書『2015年合衆国の所得と貧困』によると、リーマン危機(2008年)以来、労働者の実質所得の中央値が下がりっぱなしだった。また貧困率は上昇傾向を示し、貧困者数は4670万人(2014年)に及んだ。(中略)ところが株価はこの間3倍に上がった。

 

 

 

・公共宗教調査研究所の世論報告書によると、支持政党を問わず、約9割の人が「政府は金持ちと大企業を優遇している」と回答した。

 

 

 

 

 

さて、上記を見れば「米国社会の歪(いびつ)さ」がよく分かると思いますが、これを踏まえて考えたいのが、先週報じられた以下2つのニュースです。

 

 

 

NYダウ終値、228ドル高の41563ドル・・・史上最高値を2日連続で更新】

 

 

 

【遠のくアメリカンドリーム、マイホーム手が届かず】

 

 

 

 

 

前述のように、先週も株価は「史上最高値更新」となる一方で、人々は持ち家や家庭、快適な老後を切望するものの、実現は困難と感じていることが報じられました。

 

 

 

ウォール・ストリート・ジャーナルの調査によると、マイホームを持つことは人生設計において「不可欠」あるいは「重要」と答えた回答者の割合が89%に上る一方、実現は「容易」あるいは「ある程度容易」と答えたのは10%にとどまったそうです。

 

 

 

また、経済的な安定と快適な老後の2点については、「不可欠」あるいは「重要」と答えた割合はそれぞれ96%と95%、実現は「容易」あるいは「ある程度容易」との回答は9%と8%だったとのことです。

 

 

 

これらのことは要するに、多くの米国民が経済的に苦しんでいる一方で、一握りの金持ちばかりが、より豊かになっているということでしょう。

 

 

 

実際、今年の6月にも【米CEO報酬、従業員の200倍 格差は「騒乱警戒」水準】と報じられ、いわゆる「騒乱警戒ライン」を超えたと報じられました。

 

 

 

したがって、今年11月の米大統領選挙でも「広がる格差」が争点となるのは間違いなく、激しい経済格差と不平等への「怒りと絶望」がトランプ支持者の根底にあると理解する必要があります。

 

 

 

ですので、もしもトランプ氏が選挙で負けたら「即内戦になる」と一部の専門家は言います。

 

 

 

一方で、トランプ氏が選挙で勝ったとしても、公約の「バイデン政権が何千万人単位で入れた不法移民の強制退去、強制送還」をやろうとすれば、不法移民たちが武装蜂起(ほうき)して「内戦になる」と一部の専門家は言います。

 

 

 

特に、世界最大級のへッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエーツ」創設者で、ヘッジファンドの帝王と呼ばれるレイ・ダリオ氏も「これから米国は内戦の混乱期になる。内戦が起こる可能性は、一般に考えられているよりもはるかに高い」と発言していますので、米国の状況は予断を許しません。

 

 

 

そのような中で、今、ほぼ確実視されているのが米国の「利下げ」です。

 

 

 

通常、「利下げ」は、その国の「通貨安」に繋がりますし、反対に「利上げ」は、その国の「通貨高」に繋がります。

このことを踏まえ、最近の以下のニュースを見てみます。

 

 

 

【日本除く主要中銀の足並みそろう-早期利下げ開始をFRB議長が示唆】

 

 

 

IMF、日銀による利上げ継続の可能性を示唆】

 

 

 

【米利下げなら1兆ドルの「雪崩」、中国企業がドル売り-ジェン氏】

 

 

 

 

 

これは、まともに考えれば、為替は「ドル安円高」に動くと考える方が自然です。

 

 

 

そして本来、利下げは「景気を刺激する策」ですが、過去には、利上げサイクルから利下げに転じた後に景気後退入りしてハードランディング(経済や市場を急速に悪化させるようなこと)となったケースもあります。

例えば、20011月の最初の利下げ後に「ITバブル崩壊」があり、20079月の最初の利下げ後に「世界金融危機(リーマン・ショックなど)」があったわけです。

 

 

 

要するに、現在の米国は「内戦のリスク」や「利下げによるハードランディング(経済や市場を急速に悪化させるようなこと)のリスク」を抱えていると判断できるのです。

 

 

 

 

このような全体像を意識した上で、相場は引き続き慎重に取り組んでいきましょう。