今回は「スイス」に焦点を当てた考察をしてみたいと思います。
と言いますのも、現在スイスとEUの間に亀裂が生じており、「スイス版ブレグジット(英国のEU離脱)」の懸念が強まってきているからです。
以下にスイスに関する基本情報を整理してみます。
・人口約850万人(その内、約210万人は外国人)
・永世中立国
・EUには非加盟だが、多数の個別協定を結ぶことで、実質は加盟国のような存在になっている
・隣接するドイツ・フランス・イタリアなどEU加盟国からの越境通勤者が多い
・公用語はドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語だが、英語もよく使われる
・欧州大陸の交差点と言われている
・貿易相手の3分の2がEU加盟国
・金融立国としても知られる
さて上記の基本情報を踏まえつつ、現在なぜスイス版ブレグジット(英国のEU離脱)の懸念が強まってきているのかを考えてみたいと思います。
それは、スイス国内でグローバル化を否定する意見が強まってきている背景があるからです。
グローバル化とは「ヒト・モノ・カネを自由に、国境を越えて行き来させよう」というものですが、これに対する反発が強まっているという事です。
これは過去コラムで「ブレグジット(英国のEU離脱)」に関する背景としても説明させていただきましたが、当時多くのイギリス国民が、移民が増え過ぎたことに対する不満を持っていました。
移民が増え過ぎたとは、すなわち人口が増え過ぎたという事で、人口が増え過ぎた結果どうなったかと言いますと、仕事が無くなる、賃金が低下する、子供が急病になっても4時間待たされる病院、机が足りなくなってしまった学校、住宅不足から家賃が高騰、いつも満員の電車など、生活の質がどんどん低下していったわけです。
このようなイギリス国民が抱いた不満と同じような不満が、スイス国民の間にも広がっているのだと思われます。
結果として、2014年にスイスで実施された国民投票では、移民の受け入れを制限することが決定されました。
ところが、ここで問題が生じてきます。
「移民の受け入れ制限」は、EUの基本理念「人の移動の自由」と対立するからです。
EUとしては「人の移動の自由」は譲れない条件で、これを拒むスイスに対して強硬姿勢に出てきたのです。
なんと、今年末でスイス証券取引所を締め出す事にしたのです。
今後EUの株式市場へは参加させませんよ、という事です。
さらに厄介な問題もあります。
スイスの現状は前述のように、「EUには非加盟だが、多数の個別協定を結ぶことで、実質は加盟国のような存在」ですが、スイスとEUの個別協定には「ギロチン条項」なるものがある事です。
これは、協定の一部でも破棄されれば、他の協定も破棄されますよ、というものです。
したがって、どこまでもスイスが「人の移動の自由」を拒むということであれば、ギロチン条項が発動され、多数の個別協定はことごとく破棄され、結果としてスイスからの輸出品には高関税がかかるような展開にもなりかねないのです。
そうしますと、スイスの収入源である貿易が大打撃を受ける事になります。
しかしスイスとしては、移民の受け入れ制限は国民投票で決めた事であり、もしこれをひっくり返すのであれば「何のための国民投票だったのか?」という話にもなりますし、国民の反発も免れないので引くことができません。
一方でEUも、もしスイスに甘い対応をするのであれば、「英国⇒スイス⇒他国」といった形で、第2、第3のEU離脱国を生み出しかねないので、甘い対応はできません。
さらに現在欧州のどこの国でも反EU派が一定の影響力を保っている状況で、日本ではあまり報じられていませんが、オーストリアでは元ナチス設立の極右政党が政権入りするなど、「EUは前途多難」といった声も数多く聞かれます。
したがって、EUとしてはこれ以上反EU派を勢いづけるわけにはいかないのです。
結局この問題というのは、スイスにとっても、EUにとっても懸念事項となっています。
このような背景を考えますと、相場における中長期的な判断としましては、スイスフランとユーロは売り目線で見るのが合理的な判断になると思います。
皆さんにおかれましては、今後このような背景をしっかりと念頭に置いた上で、相場に向き合っていただけたらと思います。